
「元請から、建築一式工事の許可を取るように言われた」
下請として工事を受注していると、元請からこのように求められることがあります。取引を続けるために必要なら早く取りたい、と考えるのは自然なことです。
元請が業種まで指定してくるとは限りません。「許可を取ってほしい」とだけ言われ、建物に関わる工事だからと自分で建築一式工事を選ぼうとしている場合も、同じ確認が必要です。
元請が求める許可業種と、自社の工事内容に照らして必要な許可業種は、必ずしも一致しません。建設業許可は業種ごとに受ける制度であり(建設業法第3条第2項、別表第一)、「どの業種で取るか」を自社の実態に合わせて決める必要があります。
特に建築一式工事は、下請として一部の工種を担当している会社が申請しようとすると、実績の説明でつまずきやすい業種です。この記事では、元請から建築一式工事の許可を求められたときに、下請の立場で何を確認すべきかを整理します。
建設業許可の判断は、工事内容、請負代金の額、元請・下請の立場、契約内容、申請先の行政庁によって変わることがあります。この記事では一般的な考え方を説明しています。個別の判断が必要な場合は、申請先の行政庁や専門家に確認することをおすすめします。
元請の要請と、法律上必要な許可業種は別のもの
元請が許可を求めるのは取引条件であることが多い
元請が下請に建設業許可を求める背景には、協力会社登録や入札参加の条件、施工体制台帳の整備、今後の発注規模の拡大、元請側の社内基準など、さまざまな事情があります。
これらは元請が許可取得を求める背景となる事情ですが、元請から求められたという事実だけで、自社に建築一式工事の許可が法律上必要になるわけではありません。建設業法上必要な許可業種は、自社が実際に請け負う工事の内容や請負代金の額などによって判断します。
建設業法上の要否は、自社が請け負う工事の種類、請負代金の額等によって判断します。軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする場合は、建設業法上の建設業許可を受けずに営業することができます(建設業法第3条第1項ただし書、建設業法施行令第1条の2第1項)。
建築一式工事では、請負代金の額(消費税を含む)が1,500万円未満の工事、または延べ面積150㎡未満の木造住宅(主要構造部が木造で、延べ面積の2分の1以上を居住の用に供するもの)を建設する工事が軽微な建設工事にあたります。注文者から材料の提供を受ける場合は、その市場価格等を請負代金の額に加えて判断します(建設業法施行令第1条の2第3項)。
求められた業種が自社の工事に合うとは限らない
元請の担当者が「建築一式工事」と言う場合、現場では「建物に関する工事全般」という広い意味で使われていることがあります。しかし、建設業許可における建築一式工事は「建物に関する工事全般」という総称ではなく、他の専門工事とは区分された建設工事の種類です。まず確認すべきなのは次の2点です。
- 元請は、どの業種の許可を求めているのか(口頭ではなく書面で確認する)
- 自社が実際に請け負っている工事は、どの業種にあたるのか
この2つがずれたまま建築一式工事で申請を進めても、建築一式工事の許可によって、実際に請け負っている専門工事の許可まで当然にカバーされるわけではありません。また、営業所技術者等の要件を実務経験で証明しようとする場合には、下請として担当した工種の実績が建築一式工事の経験として認められず、要件を満たせないことがあります。
ポイント:「元請から言われたから建築一式工事で申請する」という進め方は、遠回りになることがあります。
建築一式工事は原則として元請で請け負う工事
宮城県の手引きは「原則として元請」と示しています
ここが、下請の立場で建築一式工事を検討するときの最大の関門です。宮城県の建設業許可の手引き(令和8年3月改定)では、一式工事とは工作物の建設を一体的に請け負い、総合的な企画・指導・調整を行う工事とされたうえで、次のように説明されています。
土木一式工事、建築一式工事に該当するのは原則として元請で請負う工事に限られます。
下請が一式工事を請け負うと一括下請負の疑いが生じます
なぜ「原則として元請」なのか。宮城県の建設業許可Q&A「Q2-1」が理由を示しています。
「総合的な企画、調整、指導」とは元請が果たすべき役割であり、下請が一式工事を請け負うことは、建設業法第22条で禁止されている一括下請負の疑いが生じます。したがって、下請として請け負った工事は原則として専門工事として計上してください。
下請が建物全体の企画・調整・指導まで担っている場合は、一括下請負に当たらないか確認が必要です。一方、同じQ&A「Q2-1」には例外も示されています。
ただし、民間工事であって、発注者の書面による承諾がある場合に一括下請負が認められる工事については一式工事として計上することができます。
この例外が適用されるには、元請負人があらかじめ発注者の書面等による承諾を得る必要があります(建設業法第22条第3項・第4項)。
ただし、共同住宅を新築する建設工事では、発注者の承諾があっても一括下請負は認められません(建設業法第22条第3項、建設業法施行令第6条の4)。
ポイント:下請工事は専門工事として整理するのが原則です。例外に該当する可能性がある場合は、発注者の承諾などの条件を確認してください。
2以上の専門工事の組合せであることは要件ではありません
もう一つ、誤解されやすい点があります。
「複数の工種をまとめて請け負っているから建築一式工事だ」と考える方がいますが、宮城県の手引きには、土木一式工事・建築一式工事は必ずしも2以上の専門工事の組合せであることが要件ではなく、工事の規模や複雑性などから個別の専門工事として施工することが困難なものも含まれる、と示されています。
判断の軸は工種の数ではなく、建築物の建設を一体的に請け負い、総合的な企画・指導・調整を行う工事かどうかです。複数の工種や職人をまとめているというだけで、建築一式工事に該当するわけではありません。
下請で一部の工種を担当している場合の整理
自社が下請として、内装工事・大工工事・設備工事など一部の工事を担当している場合は、まず担当している専門工事として整理するのが出発点です。
そのうえで、その専門工事を単独で請け負い、請負代金が軽微な建設工事の範囲を超えるのであれば、対応する専門工事業の許可が必要になります。業種の区分や金額の基準については、次の記事で解説しています。
- 建設業許可の29業種とは?選び方と注意点(業種の区分と選び方)
- 建設業許可が必要なケース・不要なケースとは?(500万円・1,500万円の基準と金額の数え方)
下請の実績を建築一式工事の実績として説明できるか
国家資格等で要件を満たす場合と、実務経験の証明が必要な場合がある
一般建設業の許可では、営業所ごとに営業所技術者(旧・専任技術者)を置く必要があります(建設業法第7条第2号)。この要件を満たす方法は、大きく分けて資格による方法と、学歴・実務経験等による方法があります。要件そのものの詳しい内容は、建設業許可の営業所技術者等(旧・専任技術者)とは?で整理しています。
資格による方法で要件を満たせるのであれば、過去の実績が下請中心であることだけを理由に、要件を満たせなくなるわけではありません。実績の説明が壁になるのは、実務経験で証明する場合です。
実務経験で証明する場合に認められにくい理由
実務経験で証明するときは、その経験が「建築一式工事の経験」といえるかが確認されます。下請として特定の工種のみを施工してきた場合、工事経歴書や工事請負契約書、注文書等から、実際にどの業種の工事に携わっていたのかを確認します。大規模な建築工事に関わっていても、下請として内装工事や大工工事など特定の専門工事を施工していたのであれば、それだけで建築一式工事の実績になるわけではありません。宮城県では、下請として請け負った工事は原則として専門工事として計上する取扱いが示されています。
実態に合わない業種で申請するリスク
実態に合わない業種で申請を進めると、次のような問題が生じます。
- 実務経験で証明しようとした場合、実績資料が足りず準備が途中で止まる
- 本来必要だった専門工事の許可を取得しないまま時間が過ぎる
- 許可を受けても、実際の受注内容と許可業種が対応していない状態が続く
ポイント:特に見落とされやすいのが、「建築一式工事の許可を取れば、専門工事も広く請け負える」という誤解です。建築工事業の許可だけでは、許可が必要となる規模の専門工事を単独で請け負うことはできません。元請から求められた業種だけを見るのではなく、自社が実際にどのような工事を請け負っているのかを確認し、受注実態に合った許可業種を検討することが重要です。
「工事一式」だけでは実務経験の業種が伝わりにくい
業種が特定できない書類は説明しにくい
下請工事の注文書や請求書では、工事名が「リフォーム工事一式」「改修工事一式」「工事一式」などと記載され、具体的な工事内容が分からないことがあります。
この書き方には二重の不利があります。「一式」という記載だけで建築一式工事の実績になるわけではなく、かといって、どの専門工事の実績なのかも読み取れないからです。
宮城県では、証明者が建設業許可を有しているかどうかに応じて、工事経歴書、工事請負契約書、注文書等により実務経験の内容を確認します。確認資料や確認方法はケースによって異なるため、不明な点がある場合は申請前に確認しておくことが重要です。
今後の書類に残しておきたい項目
これから受注する工事については、次の項目が分かる形で書類を残しておくことをおすすめします。元請に工事名の記載を相談できる場合は、早めに伝えておくと確実です。
- 工事の具体的な内容(「内装仕上工事」「大工工事」「管工事」など業種が分かる記載)
- 工事の具体的な内容・内訳が分かる見積書等
- 請負代金の額(税込)と支給材料の有無
- 元請・下請の立場(何次下請か)
- 入金記録との対応関係
ポイント:実務経験の確認資料や確認方法は申請先によって異なることがあります。宮城県では、ケースに応じた確認資料が定められているため、許可申請を検討する段階で、手元の資料が使用できるか確認しておくことが重要です。
元請から許可を求められたときの確認項目
元請から建築一式工事の許可を求められた場合は、次の項目を確認すると整理しやすくなります。
法的に確認すべき5項目
- 契約書や注文書等から、実際に請け負っている工事の内容・施工範囲を確認できるか
- 元請として請け負った工事か、下請として請け負った工事か
- 請負代金が建設業許可の必要となる金額か
- 申請する業種について、営業所技術者等の要件を満たせるか
- 実務経験を使う場合、その経験内容と期間を確認できる資料があるか
実務上確認しておきたい3項目
- 元請が具体的にどの許可業種を求めているのか(口頭ではなく書面やメールで確認する)
- 保有資格の名称・級・種別と、過去の工事資料がそろっているか
- 元請から求められた許可と、自社の受注実態から必要となる許可が一致しているか
まとめ
元請から建築一式工事の許可を求められても、それが自社に必要な許可とは限りません。必要な許可業種は、実際に請け負っている工事の内容から判断します。
建築一式工事は、原則として元請の立場で、総合的な企画・調整・指導のもとに建築物を建設する工事です。下請工事は、限られた例外を除き、専門工事として整理するのが原則です。
また、営業所技術者等の要件を実務経験で満たす場合は、工事内容や経験期間を確認できる資料を残しておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 元請から建築一式工事の許可を求められました。必ず建築一式工事で申請すべきですか?
いいえ。元請から求められた許可と、自社に必要な許可が一致するとは限りません。実際に請け負っている工事の内容と請負代金から判断します(建設業法第3条)。
Q2. 下請業者でも建築一式工事の許可を取得できますか?
取得できないわけではありません。ただし、営業所技術者等をはじめとする許可要件を満たす必要があります。実務経験を使う場合は、下請実績を建築一式工事の経験として確認できるかに注意が必要です。
Q3. 建築一式工事の許可があれば、内装工事や大工工事も請け負えますか?
建築工事業の許可が、すべての専門工事をカバーするわけではありません。許可が必要な規模の専門工事を単独で請け負う場合は、その専門工事の許可が必要です。
Q4. 注文書に「工事一式」としか書かれていません。実務経験の確認資料として使えますか?
「工事一式」という記載だけで、建築一式工事の実績になるわけではありません。工事内容や経験期間を確認できる資料がそろっているか、申請前に確認することが重要です。
元請から建築一式工事の許可を求められた方へ
当事務所では、受注内容・契約書類・保有資格・過去の実績資料を確認しながら、実態に合う許可業種を整理するサポートを行っています。
こんなお悩みをお持ちの方はご相談ください
- 元請から建築一式工事の許可を求められたが、自社の工事に合っているか分からない
- 下請として施工してきた実績で、どの業種を申請できるか確認したい
- 過去の注文書や保有資格で、許可要件を満たせるか確認したい
確認の結果、現時点では許可要件を満たしていない場合もあります。その場合は、今後の申請に向けて必要な資料や準備事項を整理します。
まずは直近の注文書や契約書をご用意のうえ、お問い合わせフォームからご連絡ください。
運営事務所:行政書士村上敦志事務所